世代を超えて愛され続ける和室の主人公・畳の専門家

清水製畳

三代つづく畳店、祖父の代からのお得意さんも

―まずは、お店の成り立ちから教えてください。

うちの畳屋は自分で3代目です。創業は昭和10年くらいで、昔は職人さんを5人くらいかかえていたそうです。昔は畳も手縫いでしたから、人手が要るんですね。自分の代になってからは機械化が進みまして。職人さんが2人いたこともあったんですが、今は自分ひとりでやっています。同じ畳屋さんでも、営業担当は別だとか、でき上った畳を敷きに来る人は別だとか、そうやって分担しているところもあります。でもうちの場合はお見積もりから畳の製作、仕上げ、敷き込みまで全部ひとりでやってますので、お客さんには安心して仕事頼んでいただければ……と思います。


機械を使った製造から完成品の敷き込みまで、1人の職人が担当します。

自分が畳の仕事を始めたのは、14歳のころからです。父が亡くなったのがその頃で、それから手伝いを始めて、高校生のころには仕事に加勢するようになりました。高校を出てから畳の訓練学校に行って資格を取って、正式な職人になりました。

―場所はずっとここ、今宿なんですね。

ずっとここでやっています。祖父の代からのお得意さんもまだいらっしゃいますよ。自分の代のお客さんでも、畳替えを2回、3回としてくださるお得意さんもいらっしゃいます。普段は今宿から今津、周船寺とこの近所を回ってますが、久留米の方や県外でも、頼んでくださる方がいると出かけていきます。


掲げた認定証は、専門家の証です。

―三代前からのお付き合いがあるお客さんもいるんですか。

畳屋というのは、信用が必要な仕事です。やっぱり家に上がるお仕事ですから。どういう相手かわからないと、家に上げて仕事を頼むというのは難しいでしょう。やっぱり昔から知っているところ、信用があるところがいい、と頼まれる方が多いですね。そういう事情もあるので、畳屋というのはひとつの街に一軒ずつくらいは今でも生き残っている。


この町の畳事情は、すべて知り尽くしています。

だから、もし自分の一代でこの仕事を始めていたら、ここまでお客さんもいなかったのかもしれない。やっぱり、代々積み重ねた信用が今の仕事につながっていると思いますね。信用を得るのは、時間がかかりますので。

減っていく和室、畳の現在地

―お仕事を始めて以来、時代の変化を感じるのはどういうところでしょうか。

住宅事情の移り変わりは感じています。マンションが増えたのもそうですし、一戸建てでも畳を入れる和室は一部屋だけとか、和室自体が減りました。

フローリングしかない家に住んでいる方から、「どこかに畳を敷きたい」とご相談いただくこともあります。ソファがあっても、床にごろんと横になりたい方は多いですね。そういう場合は、置き畳のご注文をいただきます。


いい畳は、いい材料から。お客さんのご要望に応えられる、豊富な品揃えも自慢です。

今の住宅は、高気密・高断熱で、いい意味で言えば住みやすい住宅になっていると思います。でも、家は住み続けるには手入れをしなければいけない。外壁の塗装とか屋根とか、もちろん畳とかね。昔はひとつの家に代々住んでいたから、畳替えに行くとおじいちゃんおばあちゃん、息子さん夫婦、お孫さんと三代の家族がいることがありました。だから畳替えに行くと、前回赤ん坊だったお孫さんが成人していらっしゃった、ということもありました。

でも、今はひと世代だけで住んでいることが多いですね。お話を聞くと「息子夫婦は県外に家を建ててる。この家もどうなるかねえ」ということはよくあります。世代を超えて家を残していく、という感覚はなくなっている気もしますね。

―それはさびしいですね。

これも時代でしょう。今たくさん建っている新築の家も、ゆくゆくは工事をして畳替えをする時期は来ます。ただ、頻度は減っていくでしょうね。親戚が訪ねてきたから客間にお通しするとか、仏間で法事をするとか、そういう機会が少なくなっています。以前は、子供さんの家庭訪問の時に必ず畳替えをするお客さんがおられました。「先生が来るから新しくしたい」ということでね。


清水さんの強みは、時代に合った提案ができる柔軟さと前向きさ。

でも、いまだに新築の一戸建てが建てば、ひと間は和室があるというのは畳屋としてはありがたいですね。床の間とか縁側とか、昔ながらの日本住宅の造作はどんどんなくなっているじゃないですか。でも畳は、輸入住宅でも和室がある場合がある。やっぱり、日本人のどこかに畳に対する思い入れが残っているんでしょうね。単純に、和室をつくるとどうしても高くつきますから。それでも和室がある住宅が多いのは、そういうことではないでしょうか。

改めて知る、畳の魅力

―畳の種類や素材の変遷について教えてください。

最近は国産の畳表の人気が高いですね。中国産で安い畳やござもありますし、大規模な集合住宅などではよく使われます。でも、個人のお客さんは国産、しかも熊本産や八代産のい草を使ってほしい、という需要が高まってきています。


素材選びから楽しめるのが、オーダーメイドの畳をつくる醍醐味。

和室の数が減った分だけ、そこに入れる畳は「ちょっとぜいたくな、いい畳をいれたい」という方も増えています。今はネットでいろんな情報を調べられるので、詳しくなっているお客さんもいる。ご自分で調べてきて、「い草じゃなくて和紙の畳表でお願いします」と言われることもあります。こちらとしてもやりやすい面はありますね。

以前は、赤ん坊がハイハイすると畳のくずが付くという苦情があったんですよ。そういう理由で畳を敬遠する方も多かったのですが、「いい畳表、いい畳を敷くと、そういうことはないですよ」という説明はよくしています。

お客さんの選択肢も増えて、よかったと思います。毎日使う、毎日目にするものですから、しっかり考えて選ぶのが大事ですね。先日、糸島のお客さんで、畳表の色と縁の色を決めるために何日か家族会議された、という方がいらっしゃいました。かなりもめたようですが、結局奥さんの意見が通りましたね(笑)。家族のコミュニケーションにもなるのかなと思います。

―畳の良さを、改めて感じる方が多いんですね。

ありますね。やっぱり、い草はいいです。温かみがある。い草の畳表と和紙の畳表をまたいで立ってみると、足の裏が温かく感じるのは断然い草のほうです。あとは香り。これは和紙とはまったく違います。


肌ざわりや香りが、部屋の雰囲気をぐっと引き上げてくれます。

先日畳を入れたお宅は、寝室やよく使うお部屋はい草の畳表、普段使わない客間は和紙の畳表にされました。やっぱり香りがいい、普段ごろんとする部屋はい草の畳表がいいということでした。以前は全部の部屋をまとめて同じ畳で畳替えをしていましたが、今はお部屋ごとに用途に応じてやってますね。

畳に興味がある方は、わざわざうちの店まで見に来て、踏み心地まで試すこともありますよ。

コロナ禍で家にいることが増えて、やっぱり畳がほしいという方もいらっしゃいます。ずっとリモートワークでマンションにいて、どうにも寒いと。室温が寒いということではなくて、人との触れ合いがなくなって、さみしいということなんでしょうね。男性一人でいらっしゃって、マンションまで畳敷きに行きました。

あとは、家にいる時間が増えたんで、家のことがいいろいろ目に留まるようになったんでしょうね。庭がある方なら花壇や植木の世話、家の中に目を移して畳を敷きたいと。コロナ禍で、お客さんが増えた部分も多少はありました。

―先ほど「家の住みやすさ」という話がありました。高気密・高断熱の現代の家は、よく言えば住みやすいという。

そうですね。住みやすい、つまり手間がかからず住めるという意味ではいいかもしれない。現代的ですよね。でも、ちゃんと手入れをして、面倒なこともやりながら暮らしていくのもいいのではないか。和紙の畳表はきれいですし、くずも出ない。い草の方はちゃんと手をかけて、こまめに拭かないとカビが生えたりします。それでも、い草ならではの良さはある。それに、い草の畳表を使うことで、い草栽培が将来に、次の世代まで残っていく。

家も、同じじゃないでしょうか。家はちゃんと手入れしていけば、何世代も、何十年も暮らしていくことができます。

畳も、せっかくですからせめて10年、できれば20年持つような畳を選んでいただきたいですね。安くしてしまうと、5年でくずが出たとか、畳表の目が開いてきたとなってしまう。せっかくお金を使って畳を入れるんですから、長持ちするものがいいと思います。

店名 清水製畳
代表者 清水和彦
住所 〒819-0168 福岡県福岡市西区今宿1-16-8
TEL 092-806-0054