アカデミックな職人技が薫るドイツパンの世界

パン工房 ゾンネンブルーメ

「一日一度はパン食を」という思いからスタート

―まず、お店のこと、江頭さんのことを教えてください。ご出身はどちらですか? 

出身は日本です。福岡生まれですよ。父がドイツで、母が佐賀出身です。父はパン屋をやりたいという日本の会社に招かれて来日して、その後製粉会社で働いたり、大阪の有名ホテルでベーカリーを任されたりしてました。最近日本でも知名度が上がってきた、クリスマスのドイツのお菓子・シュトーレンを日本で最初に作ったのは父です。

クリスマスまでのカウントダウンを彩るシュトーレン。日本にも広まりつつあります。

もともと、「ゾンネンブルーメ」は製粉業をやってる会社の一部門だったんです。50年ほど前、当時の社長(現在の会長)がドイツにずっと留学していたのですが、ドイツで学んだ「一日一回はパンを食べましょう」という風習を日本でも根づかせたいと考えたんですね。私自身は当時スイスでパン作りをしてたんですが、そのときに「一緒にやらないか」と声をかけてもらい、日本に戻ってきたんです。

親子2代で掲げる目標は「パン食文化を日本へ」。

―ドイツなどのヨーロッパでは、「パン職人」の地位がしっかり認められていると聞きました。

ドイツは完全な資格社会で、10歳のときに「この子は進学する子」「この子は就職して職人になる子」って学校の成績でハッキリわけられるんですね。日本のように、希望すれば誰でも大学を受験できる社会ではない。その先でもどんどん振り分けがあって、最終的に大学に進学できるのは100人中1人とか、そういう割合になります。そういう社会だからこそ、どんな職業でもしっかり認められているし、誇りがある。パン職人でいえば、ドイツには国家資格がありますし、国立の製パン学校だってあります。当然、社会的な地位も確立しています。

「マイスター」は「巨匠」や「名人」を意味する称号。ドイツにおける国家資格制度の一つです。

―そして、今宿に「ゾンネンブルーメ」を出店されたんですね。

最初に出店したのは今宿じゃなくて、もっと海よりの今津でした。パン屋さんをやろう、となったときに、住宅街や街中に出店すると、それまで自社の小麦粉を買ってもらってるパン屋さんと競合することになる。それはよくない、じゃあ山の中か海辺か……と探しているうちに、今津に行きついたんです。それが2003年でした。今津で10年ほど営業してから、「もう少し人がいるところに行こう」ということになって、今宿に移転してきました。

お店の名前にもなっているゾンネンブルーメ(=ひまわり)は“噛めば噛むほど美味しい”と人気のメニュー。

丹精込めた「食事パン」の魅力を知ってほしい

―ゾンネンブルーメのパンには根強いファンも多いと思いますが、改めてその魅力について教えてください。

もともとの出店のきっかけが「一日に一回パン食を」ということだったので、食事用のパンがメインです。いわゆる食パンも食事用のパンと思われるでしょうが、うちとしては食パンは別だと考えています。売れ筋なのは、やはりプレッツェルですね。こだわっていることは、石臼を使って碾(ひ)いた粉を使うこと、小麦だけではなくライ麦を使ったパンも豊富に扱っていること、あとは自家培養酵母を使うこと。なるべく添加物も少なくしています。

美味しさに加えて身体にいいことも、パン食を勧める理由のひとつです。

―石臼で碾いた粉を使ってるんですか!?

小麦もライ麦も、石臼で碾いた粉を使っています。一般に、小麦やライ麦を碾いて粉にするときには、2つの方法があります。よく使われるのが、「ロール」と呼ばれる鉄の棒で砕いて製粉していく「ロール碾き」。これはロールで小麦やライ麦を突く工程を何度も繰り返しますが、摩擦で熱が入ってしまう。こうなると、粉としては問題ないんですが、風味が多少飛んでしまう。一方「石臼碾き」は、一回の工程で粉にします。一回勝負ではあるんですが、麦の風味や味がしっかり残るんですね。それにパンを焼いたときの食感も変わります。石臼碾きの粉は、粒のまわりに薄い空気の膜ができます。この膜のおかげで、焼きあがったパンはふわっとした食感になるんですよ。

朝食のワンシーン。ハムや卵、トマトと合わせてどうぞ。

―食事用のパンと食パンは違うということですが、では食事用のパンってどういうものでしょうか。

日本食だと、おかずがあってご飯があるでしょう。そのご飯のように、食事と一緒に食べるパンのことです。食卓のメインではないけれど、大事な役割です。シチューに合わせてもいいし、ステーキを焼いたときに一緒に食べてもいい。いわゆる総菜パンとか菓子パンとは違います。

「主食になるパン」を今宿から日本中へ。熱い思いを語ってくれました。

日本で一番売れている食事用のパンって、フランスパンなんですよ。でも、フランスパン以外にも食事用のパンがありますよ、ということを知ってほしい。パンの原料のこともあります。小麦粉だけで作ったものがパンなのではなくて、世界で見るとライ麦を使ったパンは比率的には50%くらいあります。ライ麦のパンは食感も香りも小麦のパンとは違うので、これもぜひ体験してほしい。

今日もたくさんのパンをお店に並べ、ドイツパンの美味しさと楽しさを届けています。

食事用のパンって、言ってみればおにぎりみたいなものなんです。コンビニに行くと、いろんな種類のおにぎりが並んでいますよね。でも、パンには食パンとフランスパンしかない。それはちょっとさみしいんじゃないのかな?と思うんですよ。

もちろん、チーズとの相性も抜群です!

別に、煮魚といっしょにパンを食べてもいい。でも、多くの皆さんはそこで「え?」って思うでしょう。それは食パンしか頭にないからです。魚を煮た料理って、当たり前ですけど日本にしかないわけじゃない。ヨーロッパでも魚を煮た料理はたくさんあって、彼らはパンで食べてるわけじゃないですか。ということは、煮魚に合うパンがあるということです。そういう、パン食の食文化の広がりを知ってもらいたいですね。

店名 パン工房ゾンネンブルーメ
代表者 江頭 正樹
住所 〒819-0168 福岡県福岡市西区今宿駅前1-2-17
営業時間 平日 9:00~19:00、土日祝祭 7:00~18:00
HP https://www.sonnen.jp/
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TEL & FAX 092-806-8733