海辺のスタジオで、今しか撮れない思い出の1枚を

スタジオ ゲンヨー

利便性を捨てても、大切にしたかった“ワクワク”感

ーお店の成り立ちについて教えてください。

今は、芥屋にスタジオを構えていますが、もとは1972年に父が今宿で「玄洋カメラ・スタジオ」を設立したのが始まりです。僕は、宮崎の延岡で有名なカメラマンに弟子入りしていましたが、修行して2年半くらい経った17年前、30歳の時に、父が病気になったのがきっかけとなって福岡に帰ってきたんです。当時は、プリント屋さんをやっていたのですが、僕が今宿に戻ってきたことを機に、写真撮影スタジオに舵を切ることになりました。

スタジオのすぐ裏は海!最高のロケーションです。

今宿から芥屋に移ったのは、3年前。今宿にあったスタジオだとちょっと狭くて、自分がやりたいことができないと感じたんです。それに、僕は都会派ではなく、自然派の人間。海や近くの道からの景色がとてもきれいで、印象的だったのでここに決めました。訪れた人には、楽しんでもらいたいと思って、スタジオを作る時に「トトロのイメージにしたい」って伝えたんです。目を引く赤いちっちゃい扉を作ったり、芝生の庭に山を作って立体的にしたり。お子さんに喜んで、また来てもらえるかなって。今宿駅の近くにあったころのほうが、便利だったと思うんです。でも、ワクワクとか、楽しみとか、そんなイメージを持ってもらいたくで、「利便性、捨てちゃえ」って。

子ども心をくすぐる高橋さんのアイデアは尽きません。

写真館って、非日常じゃないですか。よくわからない機材に囲まれて、やっぱりみんな緊張しますよね。でも、いかにも撮られているって感じじゃなく、ナチュラルな表情を撮っていきたい。カメラマンは芸人であり、コーディネーターであり、演出家。相手が笑ってくれるために、いろんなことをするんです。だから、撮影が終わったあと「面白かった」って言ってもらえるのが一番いい。「楽しかった」って言われたら、うれしいですね。僕が撮影中にやっていた過程が、なんとなく伝わったかなって思うんです。

長年、苦楽を共にしてきた愛機たち。

人の成長を見守れる、幸せな仕事

ーお客さまは、お子さんやご家族の方が多いのでしょうか。

そうですね、0から6歳のお子さまとそのご家族がメインです。あとは、成長してからの家族写真。七五三や入学式などの家族行事で利用される方が多いですね。お客さまとの付き合いも長くなるんです。小学1年生のときは、やっぱりまだ子ども。でも6年生になると、反抗期に入ってくるんです。写真を撮ろうとすると「はぁ?」とか、「面白くねぇし」とか言い出すし(笑)。それが人間の成長。そういうときって、あるでしょう。だからそういう子には「笑わんでよか。ブスッとしとけ」って声をかけます。その人の、その時々の気持ちや、だんだんと大人になる過程が写真に反映されていく。二十歳になったらまた変わるし、さらに30歳になると、今度はその子に子どもができていたりするんです。

小さなお客さまから寄せられた手紙には、楽しかった撮影の思い出が詰まっています。

「去年までニコニコしとったけど、今年になってえらいツンケンし出したね」とか、「照れ笑いとか、愛想笑いができるようになったっちゃね」とか(笑)。そういうのがわかるのはいいですよね。撮っているのは、人だから。その人に携わって、成長がみられるっていう、幸せな仕事です。

デジタル時代だからこそ大切にしたい、フィルムの感覚

ー長くお客さまとかかわっていると、ニーズの変化を感じることもあるのでは?

昔は、写真といえば、台紙に入れて保存するのが多かったのですが、今はインテリアとして“飾る”ようになりましたね。キャンパスに印刷することも多いんです。恭しくなくて、家のインテリアに馴染むのでよいのでしょうね。なので、「キャンパスにする」ことを意識して、しぐさとか、表情を考えながら撮影をしています。

文字通り「画になる瞬間」を切り取っていく。

また、変わったことといえば、フィルムではなくデジタルになったことで、撮影したものをデータでお渡しするようになりました。でも、データって消えるんですよ。雷が落ちてパソコンが壊れたり、スマホを無くしたりしたら、一発で記録がなくなっちゃうっていうのは寂しい。だから、僕は「写真」っていう形はとりあえず残してもらいたいって思いがあります。データのみは危険。お客さまは、バックアップは取ってない方が多いでしょうから、データのみじゃなく、写真として印刷したものもお渡ししています。

照明やパーテションなど、大型の機材も完備したスタジオです。

ーデジタルが主流になって、思うことはありますか。

今は、デジタルでバーッと取れるでしょう。でも、昔はフィルムで、35ミリのカメラなら36枚。さらに動画とは違って、写真は断面。瞬間なんですよね。ここの瞬間のときに、バチっと最大限に魅力を引き出さないとダメっていうのがあって。

僕もベテランになってきて、若い写真家の子が見てくださいって写真を持ってくるんですけど、よく思うのが「何を撮りたかったかっていうのが伝わらない写真は、ライティングがよかろうがなんやろうが、ダメやろ」ということ。あまりに簡単に写真が撮れるようになったからこそ、もうちょっと責任を持ってシャッターを切れよって思うんです。デジタルだと、200枚でも、300枚でも撮ろうと思ったら撮れるんですけど、集中力がなくなるというか、惰性になるような感じが嫌ですね。だからフィルムのときと同じように、10枚の中で撮らないといけないってイメージを持っておこうと心がけています。

地域のお客さまと長く付き合い、見守っていきたい

ー最後に、これからやってみたいと思うことを教えてください。

今のスタジオには、庭があるので、お客さまを招いてバーベキューをしたいんです。実は以前も企画していたのですが、台風やコロナで中止になっちゃって。今宿の「堀ちゃん牧場」で肉を買って、「柴田酒店」でビールサーバーを借りて。

「撮る」ことを通じて、子どもたちの人生を見守っています。

お客さまとは、長く付き合っていきたいんです。親以外で、子どもの成長が実感できる仕事ってあまりない。学校の先生も、結局、小学校、中学校って区切られるじゃないですか。でも僕らの仕事って、全部見ることができる。そんな仕事、あとは医者ぐらいしかないんじゃないかな。お客さまと長く付き合うことができる、自分の仕事ながら、いい仕事だなと思います。

店名 Studio Genyo (旧:玄洋カメラ)
代表者 高橋 元
住所 〒819-1335 福岡県糸島市志摩芥屋77-16
営業時間 9:30-18:30 【定休日】毎週火曜(臨時休業あり)
HP http://www.studio-genyo.net
SNS Facebook, Instagram
TEL 092-332-8636