職人の工房で仕上げる「理想のグローブ」

ハタエスポーツ

「グローブの型付け」に特化して生き残る

―まず、お店の成り立ちから教えてください。

創業は1969年5月ですね。うちの父親が、脱サラして始めたスポーツ店です。当初は学校への納品が中心でした。まだ大型スポーツ店というのがあまりない時代だったので、ジャージから靴からサッカー用品、バスケットボール用品、なんでも置いてました。時代の流れとともに、なにか一つの部分にフォーカスしていかないとダメだということを感じるようになりまして。そこで出会ったのが、久保田スラッガーの江頭重利さんという方です。プロ野球選手のグローブを数多く手がけた方で、グローブの世界では「湯もみ型付け」で非常に有名でした。何としてもその技術を学びたいと思って、頼みこみにいったんです。


「湯もみ型付け」の専用機械たち。ここにしかない、オリジナルのものもあります。

最初はダメって言われましたね。一年かけてお願いして、やっとOKもらえて、そこから湯もみ型付けの技術を学んで、今に至るという感じです。

―今はもう、野球のグローブ一筋でやってるんですか?

お店としてはグローブ一本ですが、別の部門として学生服を売ったり、学校にスポーツ用品を卸したりもしてますね。昔はテニスのガット張りもやっていて、専門の機械を持っていたんですが、今は全部処分してしまいました。


使い込んだグローブこそ大事にしてほしい、という波多江さんの思いを感じます。

―なぜ、野球のグローブに絞ったのでしょうか。

自分自身、子どもの頃は野球をやっていて、野球が好きだったというのはあります。それと、商売のやりかたを考えたときに、ただ単純に商品を右から左に動かすようなビジネスだと、ぜったいに大きい会社が勝つじゃないですか。

そこで、商品をただ売るだけではなくて、他にはない付加価値を与えられないかと考えたんです。例えば、野球用品のなかにバットがありますが、これはたくさん商品数を揃えて、お客さんにとにかく振ってもらって選ぶ。これは大きな企業のほうが有利です。付加価値をつけるのは難しい。対してグローブの型付けは、自分自身が持っている技術で付加価値をつけられます。うちで買ってもらったグローブや、持ってきてもらったグローブを型付けする。そこで喜んでいただけるわけで、商売としての形態が違います。野球人のためになることをする、その対価としてお金をいただいている感じです。商品を仕入れて、「これどうぞ」と陳列して売るような感じではないですね。


秘伝の「湯もみ型付け」を実演してくれました。

江頭さんが、「型付けしてないグローブをそのまま売るのは、『大根ちょうだい』って言われて土がついた大根をそのまま渡すのと同じ。本当はきれいに洗って渡すでしょう」って言ってたのが今でも心に残ってます。高価なグローブはお店に並んでる状態ではちゃんとボールが取れないんですね。それをそのまま売るのはちょっと違うかな、と思います。

―グローブに特化したスポーツ店というのは珍しいと思います。ここまでの経緯を教えてください。

父がこのお店を始めたころは、大型スポーツショップというものはありませんでした。小さなスポーツ店が、街のなかにたくさんあったんですね。ある時、自分は勉強のためにアメリカに行きました。アメリカを見ておくと、10年後の日本がわかるといわれた時代です。すると、アメリカには小さなスポーツ店ってほとんどなかったんですね。生き残っているのは、何かにフォーカスした専門店。ランニングシューズなら、ランニングシューズしか置いていない。その代わり、「気になる靴があるなら、試しに履いてそのあたりを走ってきていい」と言うんですね。当時日本では、そんな店は考えられなかった。それを見て、小さなスポーツ店が生き残るためには何かに特化しなければいけないと痛感しました。他と同じような品ぞろえでは、お金を持ってる大企業が来たら太刀打ちできない。


選手から寄せられた記念品の数々。

うちの場合は、いろんなグローブを試したいという人は来ないと思います。うちに来るお客さんは、「捕りやすいグローブ」を求めてる人。お互いにとってわかりやすくていいですよね。

自分にとってベストなグローブで野球をやってほしい

―子どものころの野球経験で、グローブの重要性を感じていたとか?

いやいや、子どものころはそんなこと全然考えてなかったですね(笑)。当時は型付けを専門でやってるお店なんてなかったですから。堅いグローブを、自分たちで工夫しながらやってたと思います。だから今から思うと変な形でそのまま使ってた人も多かった。うちで型付けをするようになってから衝撃的だったのは、甲子園にも出たような人が「ああ、ここでグラブ型付けしてもらってたらプロに行ってたかもしれないな」って言ってくれたことですね。

ここ、波多江スポーツからプロの世界へ羽ばたいていった選手も多数です!

出会いというのはすごく大切だと思っています。自分は高校に教えに行くこともあるんですけど、野球指導者にはできない、職人だからできる指導もある。自分が手掛けたグローブや指導が、子どもたちにとって良い出会いになることを願っています。


波多江さんにしかできない、熟練の技。

―お客さんからは、どういう希望があるんでしょうか。

来られる方の半分以上は、「よそでグローブを買ったけどダメだった」「どうも合わない」というご相談ですね。お医者さんでいうセカンドオピニオンみたいな感じです。お話を聞いて、いろいろご提案して、実際に型付けをしたグローブをお渡しして「おお、これだこれだ!」といいながら帰っていくお姿を見ると、仕事冥利に尽きますね。

オーダーでグローブを作りたいという方は、やはりかっこいいグローブをお求めの方が多いです。そこで、どうかっこよくできるかをアドバイスしますね。

今宿の特性を生かし、地域の未来を盛り上げたい

―今宿商工業協同組合の代表を務めていらっしゃいます。どういう役目なのでしょうか?

夏は花火大会ですね。これは今宿商協会と共同で主催しています。あとは今宿タイムスという情報紙の発行。これも今宿商協会と共同でやってます。あとは今宿商工まつりですね。


「この町で働く」ことは、地域の活性化に直接的に繋がっています。

一般的な商工会と一番違うのは、今宿は商店街がないということですね。お店が点在していますし、製造業の会員さんもいらっしゃって、全員が小売業ではない。商店街があれば、そこでのイベントもあるんでしょうけど。これからはもっと多様化してくるんじゃないでしょうか。インターネット上だけでビジネスをやる会員も出てくるでしょうし。

今宿商工まつりもね、やはり地域のためになればと思ってやっています。近年今宿は外から新しく入ってくる人が多いので、そういう方たちとつながって、地域を盛り上げていきたいですね。

店名 ハタエスポーツ グラブ工房
代表者 波多江秀剛
住所 〒819-0167 福岡県福岡市西区今宿1-8-18
営業時間 完全予約制
※講師活動や外出することが多いです。土日や夜間の打ち合わせも可能ですので、事前に必ずご連絡ください。
HP http://www.0-glove.com
TEL 092-806-0510
メールアドレス info@0-glove.com